ちびのお熱は微熱にまで下がりました。
その経緯をブログに書きたいのですが、
今日は蝶の羽化について書こうと思います。
スペシャル級に長い上に蝶の暗い話題なので、お付き合い下さる方のみお願いします。



土曜日、ティニーが私とちびを私の実家まで車で送り届けてくれました。
そしてその足で彼は出張へ。
ティニーは月曜日も泊まりの出張だったのですが、日曜日に一旦一人で自宅へ戻ったんです。
私はその頃実家でちびの看病をしていました。
しかしずっとさなぎの行方が気になっており、
『さなぎを写真に撮って、写メールして』と、ティニーにメールをしました。
先日も画像でUPしましたが、さなぎに黒い色(蝶の体の色)が透けてみえてきていたので、
そろそろ羽化の頃だろうと思っていたのです。
するとすぐにティニーから写メールが。


おぉ!!


私からのメールを受け取って、ティニーが様子を見ようと窓を覗いたその瞬間に羽化していたそうです!
今ここに一匹の生命の誕生が。
送られてきた蝶の画像を父に見せたところ、
「あー、これはアオスジアゲハだ。」
と教えてくれました。
私は嬉しくなりました。
何て素晴らしいことが我が家で起きたのでしょう!
ところがその喜びも束の間、ティニーから次に送られてきたメールが…


『ベランダに落ちた』


『飛ばない』


私はひどく慌てました。
蝶に関して何の知識もなかった私は、
蝶は、当たり前のようにさなぎから出てきて、当たり前のように勝手に飛び立っていくもの、とばかり思っていたんです。
「蝶が何故落ちたのか、何故飛べないのか」すぐにネットで検索しました。


「蝶はさなぎから抜け出して、しっかりと足場を固めてから羽を伸展させるために体液を翅脈に送り込みます。」
某サイトにこのように書いてありました。


『しっかりと足場を固める』
これが原因だったんだとわかりました。
この足場を固めてから行うプロセスが、ガラス窓という非常に不安定な素材によって阻まれてしまったのでしょう。
通常蝶の幼虫は草にさなぎを作りますが、壁などにさなぎを作った場合は、
羽化後壁が滑りやすいため、壁のさなぎがついている上部にキッチンペーパーなどで足場を固めるためのスペースを
作ってあげないといけないそうなんです。


私がもう少し羽化というものに関しての勉強しておくべきだったのです。
勉強しておけば、前もってガラス窓に足場を作れていただろうし、
足場があれば、蝶も十分に羽を伸展させて無事に飛ぶことが出来たでしょう。
私が知識さえ持ちあわせていたら、救えた命でした。
もう、この蝶にひらすら申し訳なくて、申し訳なくて。
ティニーから蝶の画像が送られてくるたびに、画像の蝶に泣いて詫びました。
そしてどうにかして生きてほしい、飛んでほしい、と祈りました。



↑しっかりと足場を固めてから体液を翅脈に送り込み羽を伸展させるということが、
 落下により失敗したこの蝶は、このように羽がぐしゃぐしゃになってしまっています


ティニーから、その後もメールがきました。(ここ数年で一番メールしたかも?)
どんどん弱ってきているそうです。
それにこの暑さ。
ベランダはコンクリートなので、体感温度は相当なものでしょう。
私は、蝶を保護をしてもらうようティニーに頼みました。
ティニーは大きなケース(飛べないと予想して、フタはなし)に蝶を入れ、
水分補給のために脱脂綿にポカリスウェットを含ませて、蝶のクルクルと巻かれているストロー状の口を伸ばし、
飲ませてあげようとしてくれたそうです。
しかし『飲まない』とのこと。


再びネットで調べました。
巻かれている口を伸ばして飲ませようとしても飲まないときは、「飲みたくない」という意思表示のようです。
もしかしたらポカリスウェットが嫌だったのかもしれません。
蝶に与える水分は、ポカリ以外に、砂糖水、カルピス、塩水(塩分補給)なんかでも代用できるそうなので、
それをティニーに伝え、ポカリ以外に砂糖水、塩水も作ってもらい、飲ませることを試みてもらいましたが、結果は同じ。
飲まないそうです。
かろうじて生きている状態なんでしょうか。



私は本当は火曜日まで実家にいる予定でしたが、ティニーが今日から出張なので、蝶のお世話をするべく急遽今日自宅へ戻ってきました。
死んでたらどうしよう…と恐る恐るカゴを覗いてみたら…



どうにか生きてくれていました。
時々羽を動かして、まさに虫の息とはこれか…というような息も絶え絶えの状態でした。
私は迷いに迷いました。
『このままこの家で死を迎えさせるのか
 それとも蟻にバラバラにされようとも、鳥に食べられてしまおうとも、最期は土の上で迎えたいだろうか
 この蝶にとってはどちらが幸せな最期なのだろうか…』と。
半日悩みぬき、やはり自然に還してあげようと決めました。


私はフタもしていない蝶の入っているケースを持ち上げ、
ちびとともにマンションのエントランスへ向かいました。
エントランス先に、小さいですが植栽があるんです。
そこを最期の場所にしてあげようと思ったんです。
植栽で蝶にお別れの声をかけようとした時、マンションの管理人さんが近づいて来ました。


「あれ?これもしかしてアオスジアゲハじゃない?
 珍しいね〜。初めて見たわ。
 この蝶、ティニーさんのお宅で飼ってるの?」


私は管理人さんに事情を説明しました。
管理人さんはガラス窓にさなぎがついたこと、しかもその種類がアオスジアゲハだったことに大変驚いていらっしゃいました。
そして
「どうせなら、最期はお花の上に置いて上げましょうよ。このマンションの植栽は、樹木ばかりで大したお花もないし。
 どこか近くに花壇がないかしら?
 そうだ、駅の前にほんの少しだけど、お花のプランターがあるから、そこに置きに行きましょう!」
と仰いました。
私達はプランターを求めるべく駅へ向かおうと、蝶の入ったカゴを抱えて歩きだしました。
その時、ふわりと蝶が飛びました。
「あっ!飛んだ!」管理人さんと同時に歓声をあげました。
しかし1メートルほど飛んだだけで、力尽きて駐車場に落下。
やはり飛べないようです。
でも飛ぶこと自体不可能なんだと思っていたので(事実、家の中では一度も飛ばなかった)、
多少は飛べるということに驚きました。
蝶は落下した駐車場でグタっと地面にへばりついており車に轢かれそうで危なかったので、
再び蝶を捕まえケースに入れ、駅へと向かいました。
そして駅に到着。
駅前の道に小さなプランターが3つ並んでいました。
お別れの時です。
蝶を赤いお花の上にそっと放しました。
『頼む!花蜜を吸っておくれ…』
その願いも虚しく、蝶は花蜜を全く吸おうとしませんでした。
そしてまた、蝶は飛びました。
やはり1メートル飛んで近くの植木に落下。
そのまま植木の上で微動だにせずじっとしていました。


蝶の動向をその後もずっと眺めいていたかったのですが、管理人さんがお仕事を放棄して同行して下さっていたので、
心の中で蝶にお別れをし、名残惜しくも早々に引き揚げました。
帰宅し、ベランダのガラス窓についたさなぎの抜け殻を見ようとカーテンを開けた、その瞬間です。


ベランダの前をアオスジアゲハが飛んでいたのです。


『もしかして…さっきお別れした、あのアオスジアゲハが飛んでいるの?』


私は目を疑いました。
駅のプランターから我が家までは70メートルはあります。道の途中に信号だってあります。
それに我が家は2階ではありますが、地上からは結構な高さがあります。


『やっぱり違う。きっとこの辺りにはアオスジアゲハが多く繁殖しているんだ。今飛んでいる蝶はあの蝶じゃない。別のアオスジアゲハなんだ。
 あんなに弱っていたのに、うちまで飛来できるはずがない。
 それに見間違いで、アオスジアゲハじゃなくて別の種類の蝶なのかもしれない。』


ときめいた思いを、すぐに打ち消しました。
そしてその蝶も一瞬で消えていなくなりました。


その後も蝶の行方が不安で不安で。
30分後に、お買い物に行きがてら、もう一度駅前の植木へ様子を見に行きました。
既にいませんでした。
隈なく辺りを見回して、車に轢かれていないか、土に落ちていないか、よく探しました。
やっぱりいませんでした。
帰り際、マンションで管理人さんに呼び止められました。


「さっきね、ティニーさんとマンションでお別れした後、一匹のアオスジアゲハを見たんです。
 それもティニーさんのベランダの前あたりを飛んでいたんです!
 もしかしてあのアオスジアゲハかな〜と思って。あの様子じゃかなり弱ってたし、ここまで飛んでくるのは無理かもしれないから、
 違うアオスジアゲハかもしれないけど。
 でも私はここのマンションの管理人を長いことしてますけど、アオスジアゲハなんてマンションで見たことがないです。
 今日初めて見ましたよ。」


やっぱり先程見たベランダの前に飛んできた蝶は、あの蝶だったかどうかは別にして、
まぎれもなく、正真正銘アオスジアゲハだったようです。
前に書いたように、あの衰弱状態で70メートル先にある我が家まで飛んでくるということは不可能な気がしてならないため、
あの蝶ではない気がします。
でも時が経つにつれて、野生の底力で、もしかしたらあの蝶だったのではないだろうかとも思うようになりました。
これは完全に願望ですが…。
いずれにしても、我が家に飛んできた一匹のアオスジアゲハは、落ち込んでいた私に僅かな光と希望をもたらしてくれました。


蝶の寿命は長くて2週間ほどだそうです。
人間の命に比べると、とても短い命です。
あの蝶は、私とお別れした後早々に死んでいるかもしれない。
むしろその可能性の方が高いと思います。
でもその一方で、アオムシの時にマンションの2階まで登ってきて我が家のガラス窓にさなぎをつくっちゃうような子ですから、
度胸とパワーはあるはずです。
まだ死んでいないかもしれないという可能性だって皆無ではないでしょう。
どうかまだ生きていて欲しい。
死ぬまでに一度でいいから、自分の好きな花の蜜を吸い、自分の思うままに自由に羽ばたいて欲しい。




追記:あれからさらに調べたら、アオスジアゲハは白い小さい花の花蜜を好むということがわかりました。
   それも事前に調べていたら、最期の場所として白い小さいお花がかる花壇を探して連れて行ってあげたのですが。
   今回の出来事は、何から何まで私の無知により起こってしまった悲劇でした。
   ただただあの蝶に申し訳ないです。